SDGsの「リアル」を考える
更新日:2022年3月10日
Keywords : #SDGs #根本問題 #問題解決 #MDGs #トレードオフ #貧困 #教育

佐藤 仁 先生
東京大学 東洋文化研究所 新世代アジア研究部門 教授
国際開発学会会長
Theme
「SDGsに反対する人は少ない。しかし、同時に、万人に同じように歓迎される政策はない。SDGsを進めると困る人々、SDGsを進めて得をする人とはどのような人か。」という問いから、「"SDGsをいかに推進するか"という手段を越えて、SDGsのリアルを考えたい」というテーマのもと、佐藤仁先生を中心にSDGsに対する我々の姿勢について考える議論を展開した。
Discussion
表面上の問題の解決の前に、その原因を探れ
SDGsという単語を耳にしたときに、多くの人が問題の「解決」について考える。ただ、より根本的な解決を目指すには、表出する問題を見るだけではなく、その原因を見つめる必要があるはずである。さらに、世界的な視点で見るとSDGsという言葉を知る人は少ない。SDGsを考えるほど生活に余裕のない人も多い世界であるということを私たちは認識する必要がある。
スローガンの形骸化
SDGsは、2030年までに目指す「持続可能な開発目標」であるが、これは、2015年までに達成すべき「ミレニアム開発目標(MDGs)」が前身となっている。新しいスローガンが実質的な効果を発揮するためには、それ以前のスローガンの検証を十分に行い、地に足ついた議論をすることが必要である。また、SDGsというスローガンのもと、現場ではどのような活動がされているのかを把握し、そのトレードオフについても検討する必要性がある。
貧困問題の多面性と解決へのアプローチ 鍵となるものが「教育」
世の中の問題解決を訴えるスローガンの「呼び方」は変わる中、貧困や格差などの問題は変わらず残り続けているという現状を受けて、貧困問題の解決可能性に対する学生からの疑問が投げかけられた。この質問に対して、相対的貧困と絶対的貧困がある中どのような解決の形を見出すのか、解決の持続性、貧困・格差を形成している文化や社会制度など様々な方面から、「貧困」という大きな問題を見つめることが必要であるという内容が共有された。
さらに、そのような問題の多面性から複雑化している貧困問題に対する取り組み方についても、学生から質問があった。佐藤先生からは、「多様に生まれた人間が、多様なままで生きられる社会」を実現する鍵として「教育」が挙げられた。学生からも、国や社会の価値観を左右するものとして教育の方向性を吟味することが重要であるという声があがった。
Students' View
学生1:
まず、「SDGsに反対する人はいないが、万人に歓迎される政策というものはない。SDGsによって得をする人、損をする人は、誰なのか。」という問いそのものが新鮮だった。「多くの人が賛成することに対して一歩引いて考察することが社会における大学の役割である」という佐藤先生の言葉が印象に残り、今までSDGsに対してあまりにも表面的な理解であったと思わされ、また、SDGsを本当に実現していくためには、そのような、より一歩深い洞察が必要であると感じさせられた。
学生2:
SDGsが世界では日本と同じように受容されていない現状、課題解決には複雑な要素が絡み合っているのだということを聞き、自分たちがSDGsに対してとるべき姿勢というものを考えさせられた。また、貧困問題の解決といっても、どのような立場に立って考えるかで解決の糸口というものが異なってくるのだという視点を与えられ、今後は問題の背景にある現実を考慮していくことを意識していこうと思った。なぜ貧困問題が解決されないのか、その理由について考え、新たな問題が生じるのを防ぐという手段をとっていきたいと思った。
Conclusion
佐藤先生より、『問題を解決することから問題を作らないことへの転換』の重要性を語っていただき、その場にいた多くの学生が感銘を受けていた。私たちは、スローガンに踊らされてしまうという「リスク」を踏まえてSDGsを扱うことが重要である。そのような意識に立ってこそ、本質的な諸問題解決に向けて、より包括的かつ正確な視点を見出すことができる。「社会を一歩引いて考察する」大学に学ぶ私たちこそ、このような洗練された意識をもってSDGs達成に臨むことが必要である。